Kistler Fishing Rods - キスラーロッド
近年のバスロッドの進化は一見革新的、しかしながら実態は頭打ちです。感度のみ、軽さのみを追求すれば一瞬ユーザーは驚くでしょう。キンキンの感度、軽さ、板バネの様な反発力、 しかしそれは釣竿/道具としての性能ではありません。単に高弾性素材の特性です。
キスラーロッドの特性としてまず挙げられる軽さは、前記の様なモデルから比べると突出した性能では無いのかもしれません。しかしそれはロッドに求められる道具としての最低条件をクリアした上で、軽く、感度が良いという事です。折れない、壊れない、パワー、 トルク、バラシ難さ、振り抜けの良さ、リフティングパワー、耐久性能。それらを両立させるのは決して容易では無く、不可能に近い性能条件です。
キスラー社について
1999創業のキスラー社は老舗のひしめく米バスロッド業界においては比較的歴史の浅いメーカーです。しかし ながらその技術力と精神の根源は、キスラー社の創立者Trey Kistler氏の父親の代にまで遡ります。Trey Kistler氏の父親、Bill Kistler氏はオールスター ロッドの共同創立者、そしてキャスタウェイロッドの創立者です。彼は父親からロッド造りを学び、彼の父親がキャスタウェイを引退した後、彼自身の理想とするロッドを生産する為に彼、そして彼の父親の名前を冠したブランドを立ち上げました。
キスラーロッド ブランクスについて
キスラーロッドのブランクスはIM7シリーズを除き全てセミシークレットコンポジットグラファイトとされています(注:設立当時)。Trey Kistler氏は自身の理想とするブランク - Helium LTAを生み出す為に、今までロッドに使用された事の無いあらゆるカーボン繊維/マテリアルを徹底的にテストしました。
その後それらの材料を多くのブランクスメーカーに持ち込み、プロトブランクを競合試作させました。ブランクスメーカーには個性があり、得意/不得意の分野があります。それは客観的に見なければ分からない部分です。Kistler氏は自身のメーカーの製品ながらもそれを客観的に見る為にHelium LTA開発においてこの様な方法を選びました。勿論通常の新規メーカーには無い親子2代の実績がありますので、すべて自社生産するという方法も考えられましたが、完璧を目指す為にあえてプロデューサーに徹したのです。結果、同一シリーズ内に異なる生産メーカーの製品が組み込まれ、それは新たな個性として発現しています。その数社の競合は常に続けられている為、キスラーのブランクとして選ばれた後も常に最高の生産、進化を続けなくてはなりません。これは通常、同一メーカーではありえない緊張感を常に保つ為でもあり、この様に生み出されたブランクスは常に最高、最新のパフォーマンスを得る事が出来ます。
もっともKistler社の製品が支持されたのは新しい素材の為でも前記の様な生産手法でもありません。 KistlerのロッドはIM7グラファイトのシリーズの時点で確固たる地位を築いていました。それは同じ素材の他社製品より も軽く感じる/トルクが出ているといった使用者の感想に繋がります。Trey Kistler氏は あくまでロッドデザイナーとしていかなる素材を用いても良いロッドを生み出す事が出来るのです。
- ロッド造りにおいて最も重要な事とは何か?
- それは個体毎に生み出されたスパインを、ビルダーが量産時にその個体に生かす事である -
Trey Kistler
キスラーロッド モデル別特性(歴史)
通常メーカーのモデル分けはコストを含めたブランクスの違いを念頭にそこから各モデルへと派生して行くスタイルが多い様ですが、 キスラーのモデル分けはやや特殊です。2009年当時オリジナル素材を採用しているシリーズはArgon TS、Magnesium TS、Helium II LTX、Helium LTAの4種類ですが、ブランクス別に4種の同一モデルがある訳ではありません。これはキスラー社の個別に生み出されたスパインを個体に生かすというロッドデザイン哲学の為で、例えばHelium LTAシリーズの6フィートミディアムは、同一テーパーデザインのMagnesium TSシリーズの6フィートミディアムとは全く別の特性を発現し、必ずしもベストの性能を発揮する訳では無い為です。通常であればこれを技術的に押さえ込んでモデル化するかもしれませんが、その様な製品はキスラーにとって必要の無いモデルとなるのです。
Kistler Helium LTAシリーズ (2013年度廃盤)
IM7素材を採用したグラファイトプラスシリーズの成功により、兼ねてからの(親子2代に渡る)夢であった全くオリジナルの素材によるブランクス生産が現実となりました。しかし当時のライバルメーカーのフラッグシップモデル、G.LoomisのGLX、FenwickのTechna AVのブランクスはあまりにも高性能であり、それらを素材性能面で上回るのは大変に困難です。結果、前述の様にあらゆるカーボン繊維/マテリアルを徹底的にテストし、通常ではありえない莫大な不燃ゴミの山を築きながらもHelium LTAシリーズを完成させました。
Helium LTAのブランク特性で真っ先に挙げられるのは、軽量、高感度という点ですが、Helium LTAはパキパキとした典型的な高弾性素材の質感では無く、筋肉質でしなやかに曲がりながらパワーを出して行くブランク特性です。それは1点のみが突出した分かりやすい一見の高性能では無く、キャスト、ルアー操作、バイトを感じてフッキング、そしてバラさずに取り込む。それらロッドに求められる全ての能力、兼ね備える事が困難な能力を、高レベルで実現した上での軽量、高感度なブランクスなのです。そして米バスロッド業界においては最低条件とされる壊れにくさをも当然兼ね備えています。高弾性のブランクをぎりぎりまで曲げていった時にユーザーが感じる怖さの限界点、ロッドが悲鳴を上げる瞬間は、驚くほど奥にあります。2009年よりブランク構造を一新、より高感度で耐久性を増す"Intela MatriX"と呼ばれる積層構造を有しました。
Kistler 初代Magnesium TSシリーズ (2011年度廃盤)
Helium LTAシリーズにおけるキスラー独自のブランクス素材の成功は、またより多くのユーザーからの課題を与えられる結果と なりました。米バスロッド業界においては高額すぎるHelium LTAシリーズのバリューモデルの開発です。勿論単に安いラインを造るのならブランクの質を下げれば良いのですが、そんな商品が評価される程米国市場は甘くありません。価格が安く、それでいてHelium LTAシリーズ 同様のパフォーマンス。この命題に答えるべくまずは生産工程での人件費削減を目指し、Magnesium TSシリーズは中国工場で組み立てられています。また、ガイドリングはジルコニアからアルコナイトへの変更、これらのコストダウンによりMagnesium TS シリーズはブランクの質を維持したままのプライスダウンを成功させたのです。 さらに当時Helium LTAシリーズでは実現出来なかったセパレートグリップを採用。ライドラッピングパターン、コルクもより良い物を搭載する事が出来ました。これはブランクス1本勝負のHelium LTAシリーズには無い個性と言えるでしょう。
尚、ブランクスはHelium LTAシリーズに非常に近い属性を持つオリジナルのカーボン繊維を使用。若干の重量アップとなりましたが、他パフォーマンスは略同等とされており、より素直な属性からグラスコンポジットモデルとしての性能も秀逸です。バリューモデルを掲げながらも決して基本性能に妥協はせず、異なる魅力を生み出しています。 2008年後期よりブランク構造を一新、より軽量で耐久性を増す"Dura MatriX"と呼ばれる積層構造を有しました。
Kistler 初代Argon TSシリーズ (2011年度廃盤)
HeliumIIの発売により最高級ロッドとしての地位を確立したキスラー社において、もう一つ実現しなければならないモデルがありました。それは低価格を維持しつつ、ある突出した能力を得る事です。Magnesium TSシリーズは既存のバスロッドの概念において完成された能力を持っています。それは"頑丈"で"バラさない"能力です。現代バスロッドが安易に高弾性化する中、その製品哲学は極めて貴重な物です。そのMagnesium TSシリーズとは同じ概念で違った方向性を見出したのがArgon TS(アルゴンTS)シリーズです。"Intela MatriX"と呼ばれる積層構造を有し、まるで超高弾性素材を外殻にまとったかのような感度は、HeliumII並。それでいて"頑丈"で"バラさない"能力を有しており、もはや同価格帯でのライバルは見当たりません。尚、本モデルもMagnesium TSシリーズ同様中国工場で生産されています。
尚、他モデルが使用ルアーをある程度ユーザーに委ねていたのに対し、本モデルは比較的絞ったモデル展開と言えます。結果細かなレングス展開となっており、新たな個性となっています。全体的に長めのレングスの製品が多いのは最近のトレンドと言えますが、それは元来フォアグリップレスデザインだからこそ生きる長さなのです。
Kistler Micro Magnesiumシリーズ (2012年度廃盤)
フォアグリップレスをバスロッドのスタンダード化したキスラーが次に提案したのが「マイクロガイド」です。09年夏のICASTでの発表以降、そのあまりの性能に世界中で追従者を生み出しある種今後のバスロッドの形式を位置づけたとも言えます。マイクロガイドは小口径の同一径ガイドをバットからティップまで並べたシステムでその利点として「軽量化」、「感度の向上」、「強度の向上」、そしてブランクの性能をそのまま引き出せる事から「パワーの向上」、さらには一見想像し難いですが、「飛距離の向上」までをも生み出しガイドシステムの新たな転機となる事でしょう。今回キスラーはマグネシウムにてマイクロガイド搭載モデルを発売しテーパーも合わせて特殊なモデルとしました。通常モデルより張りがあり高感度+肉厚ブランクが特徴で大変面白いロッドになっています。
ノースフォークコンポジット社製ブランクの採用(2010-2020)
ノースフォークコンポジットの登場によりキスラーのロッドラインナップは大きく変化しました。G.Loomis社の創設者であるゲイリー・ルーミス氏が新しく立ち上げたノースフォークコンポジット社は新進気鋭のブランクスメーカーです。キスラーのロッド造りがこれまで比較的低弾性の素材を、キスラー氏による優れたテーパーデザインによって軽量化、高感度化していたとするならば、今回のZ-Boneは高弾性素材をテーパーデザインによって高トルク化した製品と言えます。事実トルク感ゼロの国産ハイエンドロッドの感度を有しつつ09ヘリウム並みに粘るZ-boneシリーズは、もはやバスロッド至上最高と断言出来る能力です。
Z-Boneシリーズの発表
ノースフォークコンポジット社製ブランクス「HM」シリーズを使用した高弾性モデル。基本は40トンカーボンを使用し独自の製法により強度とトルク、粘りを出す事を実現。高弾性カーボン素材の常識では「ありえない」性能を出す事に成功しました。さらにキスラー社のテーパーデザインをプラスする事でブランク全体を覆う「響き」と「感度」は高弾性+低レジン素材を使用した国産ハイエンドロッド並み。さらに驚いた事に通常それらロッドとは共存し得ない能力である「粘り」と「トルク」までをも有している。正に2010年当時最強のバスロッドと言える。 尚、「HM」シリーズはバスロッドブランクスとしては異例の高価格で、G.Loomisの当時の最上位機種であったGLXシリーズの実に35%アップとなっている。 Z-Boneの生産はこれまでのOEM体制から一転、キスラー社自身で行う事になりました。この計画によりキスラー社は実際2009年末に社屋を移転、工場併設としています。
KLXシリーズの発表
ノースフォークコンポジット社製ブランクス「IM」シリーズをベースに、高強度化された汎用ブランク。高品質な完全米国製ロッドを低価格で実現する為の新たな挑戦。実釣に不必要なコスメ、ラッピングを徹底的に取り除く事でブランク性能を維持したままロープライスを実現。また、これまでより用途、グリップレングスを細かくシリーズ化し、多数のモデルラインナップを行う事で、個人の体格差、好みに細かく対応。カスタムロッドの使用感を実現した。
Helium3シリーズの発表
フォアグリップレスデザイン(初代-その後保護フードのみ搭載)
Kistlerのロッドにはフォアグリップがありません。見慣れないデザインは当初ユーザーの拒否反応を促しますが、キスラー社は確固たる信念を持ってこのスタイルを生み出しました。そして今やこのスタイルは数々の追従者を生み出し、アメリカ市場においてはスタンダード化しつつあります(数年の後にはフォアグリップがあるバスロッドの方が珍しくなるかもしれません----その約10年後、市場ではそれが現実となりました。)。 実際数日使用するとフォアグリップが全く邪魔な存在に感じられるという感想が多い事からも、このデザインが優れている事が分かります。 勿論見た目の問題だけではありません。全体の軽量化、無駄なコスト節約は勿論の事、グリップ分だけブランクスを長く使える 、ブランクに直接触れて感度を得られる等の利点があります。実際グリップ分のブランクスを長く使えるという事は、近年の1インチ刻みのロッドレングスの細分化において、いかに重要かがお分かりでしょう。フォアグリップレスデザインは、ショートロッドの取り回しのままにロングロッドの利点を得る事が出来るデザインなのです。尚、フォアグリップが単に無いデザインと本デザインは根本的に異なります。現在市場に出回っている多くの製品は単にフォアグリップが無いデザインであるのが大半です。何が違うのか・・?一度キスラー社製品を使ってみて下さい。
"マイクロガイド" -2009年発表
日本のヘチ竿にインスパイアを受け、バスロッド用として開発された小口径ガイドシステム。マイクロガイドは小口径の同一径ガイドをバットからティップまで並べたシステムでその利点として「軽量化」、「感度の向上」、「強度の向上」、そしてブランクの性能をそのまま引き出せる事から「パワーの向上」、さらには一見想像し難いですが、「飛距離の向上」までを実現し、その後多くのフォロワーを生み出しました。搭載当時は主に4mmクラスのガイドが搭載されてましたが、現在は4.5-5.5mmまでモデルによって使い分けられ、バットガイドは大き目のモデルが装着されています(影響を受けた各ガイドメーカーが専用モデルを発売した為)。尚、マイクロガイドより一回り大きいサイズのシステムとして"マクロ"ガイドと呼称しています。